★ 冥土の手土産 ★
<オープニング>

 夏の市役所は涼しい。
 しかし、対策課は今日も忙殺されていた。
 ひっきりなしに電話がなり、住民登録の受付窓口は行列だ。
 そんななか、乱れる髪を手で直しながら植村直樹がやってくる。
「すみません、皆さんのお力を貸していただきたいのです」
 植村直紀が出したのは数枚のプレミアムフィルム。
 すべてが血でべっとりとしていた。
「ここ数日、ムービースターの殺傷事件がおきています。被害者は増えていまして、何とかしたいのです」
「先日、友人と共にあるいていて、偶然助かった人がいましてその彼から事情をきいて、解決に当たってほしい思います」
 植村がそこで言葉をきり、隣の部屋の人物を呼び出す。
 その人物は外国人の少年のムービースターであった。
「チャールズです……」
 おどおどした様子の彼はそれだけつぶやく。
「チャールズさん、見た光景のほうを説明してもらえますか?」
「あの、ニホントウ? をもったメイドさんが『一枚足らない』といいながらニホントウを振り回していて、僕怖くて……友達を……おいて……」
 恐怖がチャールズを襲い、目を涙でいっぱいにした。
 女性職員が彼をなだめながら、隣の部屋へ連れて行く。
「これくらいしか情報はありませんが、住民の安全のため協力してください。おねがいします」
 植村は深く、深く頭を下げるのだった。

種別名シナリオ 管理番号200
クリエイター橘真斗(wzad3355)
クリエイターコメント夏の怪談話2本目。

元ネタはアレです。
しかも、メイドさんです。

一枚足らないのはあるムービーのフィルムのようですが……。

どこかでムービースターを倒せばフィルムになることを知ったのです。

そんな危ないメイドさんを止めてください

参加者
大鳥 明犀(crby5925) ムービースター その他 17歳 悩める少年
十狼(cemp1875) ムービースター 男 30歳 刀冴の守役、戦闘狂
天宮 草月(ccaz8108) ムービーファン 男 48歳 小説家
榊 闘夜(cmcd1874) ムービースター 男 17歳 学生兼霊能力者
<ノベル>

【冥土の手土産】


 ”銀幕メモリー”
 銀幕ジャーナルのコンテンツの一つ。市民による投稿コーナーだ。
 事件の報道とは別に、街で起きた個人的な出来事などを自分で書くというものだ。
 

〜はじめに〜

 最初にいっておく。
 ”事実は小説より奇なり”と良く言われるが、この街。銀幕市においては特に顕著だとおもう。
 これはぼくの経験した中でも特に異質な経験となった。
 だが、これを普通の事件として扱って欲しくはない……。
 彼女は”被害者”だったのだから……。
 
〜神秘〜

 そのとき、思わずぼくはメモを落としてその光景に見入ってしまった。
 目の前で、チャールズ少年から醜悪なモノが這いでたのだ。
「シュガァァァ!」
 大鳥 明犀 (ミョウセイ) という少年の持つ力。
 正確には、彼に取り付いている天使の力らしい。
 少年の額から目が開かれ、優しい微笑みを怪物に向けていた。
 事前説明を受けていたにもかかわらず、ぼくはその光景に対応できていない。
『では、デ・ガルスあとは頼みましたよ』
 少年のものとはおもえない、優しい風のような声が放たれた。
『はんっ、いわれなくてもな』
 そして、すぅっと光が薄らいだかとおもうと大鳥少年の雰囲気が粗暴なものに変わった。
 空間がゆがみ、巨大な剣が大鳥に握られる。
 勝負は、本当に一瞬だった……。
 
〜事情〜

 まともに話せるようになったチャールズへ大鳥少年と共に話を聞くことにした。
「今、思い出したのですが……襲ってきたメイドはアメリカの超B級映画で、日本の『お菊さん』をモチーフにした話だったとおもいます」
「そらまたひでぇ映画だな……こっちに輸入されないのもわかる気がする」
「日本人で居合い術の達人で……あと、原作では何があっても死ななかったはずなので……」
 チャールズ少年は昔見た映画を必死で思い出しメイドに関する情報を話してくれた。
「不死者なら、エステリアの力でなんとかなるかも……」
「おめぇ、ロケーションエリアだと抵抗されるぞ」
「結末は……すみません、ちょっとおもい出せなくて……」
「いや、感謝するぜ。だいぶ対策が練れそうだからな」
「ありがとうございました」
 大鳥少年と共にぼくはチャールズ少年に礼をした。
 市役所から外へでようとしたとき、チャールズ少年にぼくは呼びとめられる。
「あの、最後に一つ……」
「なんだ?」
「天宮さんでしたっけ……貴方の顔つき、そのメイドの主に似てますよ」
「ははは、映画スターに似てるっていわれたのは初めてだな。ありがとよ」
 ぼくはそれだけ返して、大鳥少年と共に遭遇したという公園へと向かうことにした。
 
〜遭遇〜

 人の少ない夜の公園。
 暑さの残る夜は、湿気と共にけだるさを漂わせていた。
「暑いな」
 暑さにも負けないほど自身をけだるそうにしている榊 闘夜(トウヤ)はつぶやいた。
『ケケケ、だらしねぇなぁ』
「うるさい」
 横を歩きながら笑う、狼―鬼躯夜(キクヤ)―にたいし、蹴りを食らわせた。
 そのときだ。
 急に冷たい風が吹いた。
 台風のように体が吹き飛びそうなほどの強い風。
『いったい、何だってんだ』
「知るかよ……」
 つむっていた目をあけると、そこには夜の公園に不釣合いな、メイド服の女性がいた。
「一つお聞きしたいことがあります」
 ブーツを履いたままカツカツとメイドは近づいてきた。
(メイド喫茶の勧誘とかか?)
「なんだ?」
「貴方様は”ムービースター”という方でしょうか?」
『なんか、様子おかしくねぇか?』
 鬼躯夜はそういい、闘夜を見上げる。
 闘夜はため息と共に頭をかいてメイドの横を通りすぎようと歩き出した。
「どっちでもいいだろ、面倒」
「重要なことなのです……どちらなのですか?」
 通りすぎようとする闘夜の腕をつかみ、メイドは食い下がった。
 まるで陶器のように白い手は力強く、闘夜の腕を締め付ける。
「ムービースターだっ! だから離せよ!」
 語気を荒げて闘夜は腕を振り解いた……。
「でしたら、”足らない一枚”か確かめさせてもらいます」
 振りほどかれたメイドはうつむいた。
 しかし、口元はにやりと微笑んでいる。
「は?」
 意味不明な言葉に闘夜は振り向きながら、声を出す。
 シュビィンッ!
 空気なのか空間なのか、聞きなれない効果音と共に光が闘夜の視界を走る。
 天性の勘のなす業か。
 一瞬の閃光を上体を反らす動作だけでよけた。しかし、制服の襟がすっぱり切れている。
「ちっ……」
 そのままバク天し、体勢を戻す。
 メイドの手には日本刀が握られていた。
「一枚、足りないのっ!」
 クワッと目を見開き、メイドは闘夜との距離を詰めた。
 先ほどまでのおとなしさは微塵もない。
 あるのは殺気、そして狂喜。
「面倒だ」
『この期に及んでそういうかよ、お前は』
 鬼躯夜の突っ込みと同時に闘夜の視界を閃光が走った。
 横に転がるように避ける。
 閃光がちょうど背後にあったベンチをなぞり、それが綺麗に切られた。
「しゃれにならない能力だ」
 足をたたみ、いつでも次の動作に動けるよう目を敵に向ける。
「大人しく斬られてくださいな……大丈夫、一瞬であの世へいけますから」
「面倒。逃げる」
『おいおい、久しぶりの強いやつだぜ? 俺に闘(や)らせろよ』
「知らん」
 闘夜は公園の中をメイドから離れるように駆け出す。
 夜の生死をかけたかけっこがはじまった。
 
〜戦慄〜

「早く帰らなければな、若への手土産が溶けてしまう」
 依頼を終え、アイスクリームを片手に十狼(ジュウロウ)は公園をあるく。
 杵間山のふもとの”我が家”へは公園をつききると早かった。
 静かな公園は自然もあり、割と気に入っていた。
 しかし、今宵はその静寂は長く続かない……。
「どけ、おっさん」
 バタバタと走ってきたのは闘夜だ。
 ドンとぶつかられ手にもっていたアイスが落ちそうになるもしっかりとつかむ。
「私はおっさんでは……」
 その言葉がいい終わらないうちに、ビュィンという音がしてアイスが袋ごと切り裂かれた。
「!」
「私の一枚ぃぃぃぃっ!」
 音の後をメイドが狂気を帯びた瞳をして駆け抜けようとした。
「貴殿、許さん」
 十狼は落ち着きつつも、怒気のある声で言い放つ。
 駆け抜けようとするメイドの前へ、タンッという一踏みで踊りでた。
「ジャァマァァッァッ!」
 女とは思えないような声を上げ、メイドは日本刀を振りかざす。
 狂気にとらわれているようにみえるが、動きに無駄はない。
 一閃が走り、それを十狼が二本の煌きで返す。
 シャァァァッと金属同士がこすれ、火花が飛び散った。
「隙ありっ!」
 十狼の刃がメイドの両肩にめり込み、そのままエックスを描くように切り裂いた。
 メイドが剣風に押され、吹き飛ぶ。
 ズザザザっと、レンガ舗装された公園の道にメイドがずられた。
 ピクリとも動かない。
「やるな」
 ひょっこりと闘夜が戻ってきて十狼に声をかける。
「何度もいうが、私はおっさんでは……。そもそも、貴殿には年上のものに対する態度というものが……」
 闘夜に体を向けなおし、十狼は説教をしだす。
「面倒……いや、後ろ」
 頭を掻いてどうやって逃げようかと考えた闘夜の視界に月を背景にとびかかるメイドが写った。
「あの一撃で耐えた……不死者か」
 斬られたメイド服からは黒ずんだ傷跡が見えた。
 右手を後ろに引き、日本刀は鞘に納まっている。
「また、居合いがくるな」
「貴殿も手を貸せ、”本気”で潰しにいく」
「面倒だが、了解」
 打ち合わせをしている間にもメイドの姿は月を覆い隠すほど大きくなっていた。
 光のない瞳に、白い肌をしたメイドが刃を抜く。
 十狼と闘夜は左右に飛び一撃を交わす。
 レンガ模様の道路に光が走り、砂煙を上げて砕け散った。
「でやぁぁっ!」
「そららっ!」
 十狼がクイックステップでメイドに迫る。
 闘夜もターンをして殴りかかった。
 十狼の刃と闘夜の拳がメイドの左右から同時に迫る。
「旦那様に許してもらうまでは死ねないのよっぉぉぉ!」
 狂乱しているメイドは脅えも怯みもせず、十狼の二段斬りを一方を刀で受け、二撃目をその身で受ける。
 それと同時に、闘夜は鞘で胸を突いた。
「そこまでの執着……何があるというのだ」
「ぐっ……何だよ、この女」
『おもしれぇ相手じゃねぇか、俺に変われよ』
 十狼は手ごたえのあまり感じない刃をそのまま斬り抜く。
 闘夜は後ろに下がり胸を押さえた。
 十狼に斬られた手がずるりと落ちるも、メイドは拾い上げてぐちゃっとつけた。赤黒いものが残りながらも手はつながった。
「旦那様に認めてもらうの……なくしたフィルムをもどして、あの頃のように……」
 メイドは構える。
「徹底的にやるしかないな」
「そうだな」
 十狼も闘夜もグッと構える。
 そして、どちらからともなく動いた。
 
〜決着〜

 大鳥少年の不思議な世界に行って、これ以上のことはないとおもっていた。
 しかし、今、目の前で起こっていることはどう説明したものか……。
 二本を剣を持った美丈夫と、学生がポントウを持ったメイドと戦っていた。
 メイドのほうが圧倒的にボロボロだった。
 しかし、とまらない。
 いくつモノ刃に切り刻まれ、魔法に撃たれ、式神に喰われようとも。
 彼女は止まらず刀を振り回していた。
「不死者ですか」
『私の力で消しとばしましょうか?』
 大鳥少年が一人芝居、いや天使である”アルニエル”と話をしているのだろう。
 だが、ぼくはそれを止めた。
「すまんが、まってくれ……ぼくが話をつけてくる」
「危険ですよ」
「それでもいかせてくれ……頼む」
 どうしてそんなことをいったのか、ぼく自身もわからない。
 けれども、そのときは”ぼくが動かなければならない”そうおもっていた。
「おい、その辺で止まってくれ。彼女に取材したいんだ」
 メモを片手に彼女に近づいていく。
「貴殿、危険だ!」
 メイドと対峙している美丈夫が言い放つ。闘夜もうなづく。
 そんなこと、ぼくにもわかっていた。
「また邪魔をぉっ!」
 メイドがボロボロになりながらも刀を振るってきた。
「ぐっ!?」
 ぼくはただの小説家だ。運動神経がいい訳でもなく、よけれるはずがない。
 紙で指を切るのとは比べ物にならない痛みが右肩に走った。
「困ったな、メモがかけない……」
「だ、旦那……様」
 メイドが苦笑するぼくを見ると先ほどまでの狂気が嘘のような声をだした。
「ぼくは、君の旦那……様じゃない」
 流れる赤いモノを抑えようとぼくは左手で肩を押さえた。
「申し訳ありません、ことが片付けばすぐに手当てを……」
 メイドが言葉を言い終える前に、美丈夫の剣がメイドの胴を串刺した。
「不死者よ、最後に言いたいことがあればいうがいい……」
「あぁ……旦那様、大切なフィルムをわざとなくしてしまい申し訳ありません……」
 メイドの目は美丈夫ではなくぼくへ向けられていた。
「……気にするな、また買えばいい。だから、お前がこんなことする必要はない」
 ぼくはどうしてか、取材もせず映画のような台詞をしゃべっていた。
「ありがとうございます、それだけが苦で探しておりました……これで、楽に……」
 彼女の目から赤黒い涙が流れだした。それが彼女をぬらしていくとそのままうっすらと姿がなくなっていく。
「……」
「旦那様、私は今でも貴方様を愛しております……貴方様に捨てられるのが怖くて……」
「もういい、だから……ゆっくり休め」
 痛みも忘れ彼女に近づき、頭を撫でようと手を伸ばす。
「勿体亡きお言葉……感謝し……」
 彼女の頭に触れようとしたとき、彼女は”フィルム”へと姿を変えた。

 
〜あとがき〜
 
 事件のあと、彼女の出ていた映画を入手し、見る機会ができた。
 字幕だけのもので、彼女は不死身のスプラッターだった。
 しかし、ラストシーンはまさにこの事件の結末と一緒だった。
 ぼくが意図したわけでもないのに……。
 
 彼女とはもっと別の出会い方があったようにおもう。
 もし、彼女がプレミアムフィルムの存在をちゃんと理解していたら。
 もし、事件の前に彼女のことをしっていたら……。
 現実に「たら、れば」をもってきてはいけないことは重々承知している。
 けれども、この結末は事実として受け止めるには残酷だ。
 
 ”事実は小説より奇なり”
 
 そのことを今一度感じさせてくれた事件だったとぼくはおもう。
 彼女のことをぼくは忘れない。
 
                        天宮 草月

クリエイターコメントちょっと変わった形式で書かせていただきました。
どうでしょうか?

珍しく規定字数オーバー。
しかし、削るのは惜しいとおもうので、このままでゴーとさせていただきます。

激バトルモノを予定しておりましたが、参加者を考慮してこんな結末に……

此れに対するご意見、ご感想など切にまってます(汗)

それでは、再び運命の交差するときまでごきげんよう
公開日時2007-08-29(水) 12:10
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